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第38話 帳簿を握る未亡人

last update publish date: 2026-09-14 21:35:20

帳簿を読む時、エレノアはまず数字を見ない。

 最初に見るのは、紙の汚れだった。

 よく開かれたページは、端が少し柔らかくなる。

 急いで書かれた数字は、インクの濃淡が乱れる。

 後から書き足された行は、文字の角度がわずかに違う。

 消そうとした跡は、紙の繊維が荒れる。

 数字そのものは、嘘をつく。

 だが、紙は嘘をつくのが下手だ。

 夫人会から提出された帳簿は、北翼の会議室に積み上げられていた。

 五年分。

 慈善販売。

 寄付茶会。

 衣料会支援。

 孤児院修繕。

 薬草園慰問。

 戦没騎士遺児教育基金。

 祈祷布修繕。

 青い祈りの糸。

 帳簿は美しかった。

 表紙は丁寧に磨かれた革。

 題字は整っている。

 月ごとの仕切りもあり、支出と収入は一見、きちんと並んで
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  • 妹に婚約者も家名も奪われましたが、王妃の遺言状は私を後継者に指名していました〜三日後、王宮は相続争いで崩壊します〜   第63話 副責任者たちの初会議

    副責任者制を導入する。 そう決まった翌朝、エレノアの机はいつもより少し広く見えた。 書類が減ったわけではない。 むしろ、増えている。 王妃基金の次期三か月計画案。 各部門の副責任者任命案。 判断権限表。 報告経路図。 緊急時対応手順。 未確認事項の上げ方。 副責任者ごとの空欄理由欄。 エレノア本人の業務時間記録表。 最後の一枚だけは、見なかったことにしたかった。 だが、机の中央に置かれている。 しかも、リリアナの字で小さく「ここも大事」と書き添えられていた。 エレノアは、その文字を見てため息をついた。 大事なのは分かっている。 分かっているからこそ、厄介なのだ。 人へ任せるということは、自分で見られなくなる部分が増えるということでもある。 それは、今までの事件で何度も危険だと確認した。 ダリウスへ任せすぎた王太子府。 アルマンへ家政を委ねすぎたベルナール分家。 夫人会の名声に資金と支援先を預けすぎた王宮。 母に守られ、知らされないままにされたリリアナ。 すべて、任せることと見ないことが混ざっていた。 だから、エレノアは任せることが怖い。 でも、自分一人が抱えれば、別の危険が生まれる。 王妃基金の再建が、エレノアという一人の能力と体力に依存する。 それは、王妃が望んだ制度ではない。 王妃個人の善意に依存しないために常設基金へ変える。 そう決めたのに、今度はエレノア個人の実務能力に依存するなら、形を変えただけだ。 机の上の任命案を見る。 孤児院・救貧院支援副責任者。 基金事務官ヘン

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